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名古屋大学 『ソーシャルムーバー養成講座』

学部・学科/研究科名 名古屋大学 医学部 医学科
講座名 ソーシャルムーバー養成講座
対象者 学部生、大学院生、その他
担当教員 立川 幸治

講座の目的

産業社会を革新する企業家はぶ厚い「事業起業精神に充ちた人材」層があってはじめて生じ、さらにその起業人材層は営利事業にとどまらぬ「社会的変化をめざす精神」の昂揚があってはじめてその候補者らが持続的に輩出される。昨今、社会起業家教育の必要性が訴えられ、そのための経営技術教育が始まりつつあるが、それを求める学生は現時点ではまだ多数を占めるに至らない。それは、彼らの多くがそうした精神を忌避しているのではなく、身近な実例や先駆者を身近に感じられる機会に乏しく、そういう活動ができる人間は特殊という観念にとらわれているからである。本講座の目的は、そんな普通の学生たちの心を揺さぶることだ。特に比較的保守的な環境に囲まれているが、まさに社会的イノベーションが求められているヘルスケアという職人かたぎ世界を歩むことを予定された層にアントレプレナー精神を吹き込むことを目的とする。

講座スケジュール

日程 日付 講座内容
平成22年1月 19 ソーシャルムーバーとは何か
20 ソーシャルムーバーとライフイノベーション
20 ソーシャルムーバー養成講座
平成22年2月 4 最高の教師は心に灯を灯す
4 姉御はソーシャルムーバ-?
15 プロフェッショナルへの期待

実施報告

第1回 ソーシャルムーバーとは何か

講義開催日 2011年1月19日
開催場所 鶴舞キャンパス修士講義室
担当教員 立川幸治
講義の内容 ソーシャルムーバ-は造語である。まだ何らのauthorityからapproveされたものでもない。しかし、「日本的あいまい、ためらい、弱さ」と「非日本的アントレプレナーシップ」とをぶつけて止揚させた中から生まれる、これからの日本の社会、次世代の若者に最も必要な要素、精神である。勝手な造語なので言い出しっぺの私においても定義はときに揺れている。が、その揺れを含めて、なぜ今ソーシャルムーバーなのか、一体どんな人をイメージしているのか、それらを私自身の歩んだキャリア変遷とそこで見てきた世界の話しを含め紹介した。
使用教材等 医療経営・経営学入門(立川幸治、教材開発プロジェクト成果物)
ソーシャルムーバ-養成講座(立川幸治)
ソーシャルムーバー養成講座last message.pdf

第2回 ソーシャルムーバーとライフイノベーション

講義開催日 2011年1月20日
開催場所 鶴舞キャンパス修士講義室
担当教員 仙石慎太郎氏
講義の内容ならびに担当教員所感 仙石氏は東大大学院にて理学博士号を取得したのち、マネジメントコンサルティング会社マッキンゼー社、ライフサイエンスに特化したベンチャーキャピタルファストトラックイニシアチブ社、並行して東大薬学系大学院講師を経て、現在京大物質-細胞統合システム拠点の独立准教授・イノベーションマネジメントグループ代表として研究に従事している。同氏からはそのキャリアチェンジの通じて見てきた起業活動、特に米国型起業スタイルと日本のそれとの違い、成功要因の差を、ライフサイエンス領域に絞って紹介してもらった。同時に、個人のキャリアとして純粋に営利を追求する企業社会から別方向の目的をもつアカデミアに転じた同氏の生き方、さらに近年問題となっているオーバードクター問題など社会的課題に対し同氏がイニシアチブをとっているNPO活動など広い話題提供があった。
最後に近年増えてきた他分野(マネジメントや政策など)に転じる若手医師の具体例なども紹介された。
ベンチャーファイナンスやiPS細胞活用はじめ先端研究の話題など学部生には少々ついていけない部分もあったが、最後に医師ならではのリスクテイキングできる強みについては数人の学生が強い興味を示していた。
使用教材等 「ソーシャルムーバーとライフイノベーション」(仙石慎太郎)
2回仙石氏講義資料.pdf
教材・配布資料、その他 r0011398

第3回 ソーシャルムーバー養成講座

講義開催日 2011年1月20日
開催場所 鶴舞キャンパス修士講義室
担当教員 柴田有三氏
講義の内容ならびに担当教員所感 柴田氏は京大大学院で農学修士号を取得したのち、自らの好奇心のおもむくまま世界各地を又にかけ、様々な事業、なりわいに取り組んでいるユニークな方である。本人いわく「世の中知らん事が多すぎるなという事に気づき、自分自身も知らん事が多すぎるなと思って、それを1個1個ずつ教えてくれそうな先生の所、尋ねて行き、なかなか答えがないのであれば自分自身フィールドに行って何らかの自分なりの理解を得る」という活動をもう10年以上続けている。一方、研究者支援、研究者にそのスポンサーを紹介する事をやるなどアカデミアとの関係も深い。講義では訪れた世界、イラクやアラブや自衛隊や、まさに普通の感覚ではつながらないあっというような自らの経験が語られた。
多くの聴講学生はあっけにとられるところが多々あったようである。まさに雲をつかむというか、現実にこんな生活ができるのだろうか?と感じられたかもしれない。しかし、実際にしている人がいる。その衝撃は与えることができたようだ。
使用教材等 ソーシャルムーバー養成講座(柴田有三)
3回柴田氏講義資料(抜粋).pdf
教材・配布資料、その他 r0011399

第4回 最高の教師は心に灯を灯す

講義開催日 2011年2月2日
開催場所 鶴舞キャンパス修士講義室
担当教員 寳槻 泰伸氏
講義の内容ならびに担当教員所感 寶槻氏はまだ29歳の若手教育ソーシャルベンチャー起業家である。
氏自身が高校を中退、大検を経て京大へ進学。そのときの管理主義的、全体主義的学校教育へのアンチテーゼとして大学卒業直後からインターネット塾を起業。当初目論んだ事業は成功に至らなかったが、その後ネットビジネスを主軸に収益事業を構築、現在再び高校生へのリベラルアーツ教育の出前をする、Litという活動を行っている。自己教育、学校教育、社会教育という三軸を提示、その中の社会教育をドメインとした非営利事業である。
聴講する学生の中にも塾でのバイト経験をもつものが少なくなく、共鳴し積極的に質問をする学生も多数いた。
使用教材等 最高の教師は心に灯を灯す(寶槻泰伸)
4回寶槻氏講義資料(抜粋).pdf
教材・配布資料、その他 r0011414

第5回 姉御はソーシャルムーバ-?

講義開催日 2011年2月4日
開催場所 鶴舞キャンパス修士講義室
担当教員 西村(黒田)由美子氏
講義の内容ならびに担当教員所感 西村氏(女史)は、元々は自身曰く完璧な理系人間、生活のすべてを実験室での時間に費やしていた若手研究者であった。ところが、今や本人の表現によれば、自由業、周りの人からは「おまえは何をやっているかよく分からない」と毎回言われると称する人物となっている。社長秘書のバイトをするなど一風変わった大学院時代を経て縁あって東大先端研の知財マネジメント部門に移り現在に至っている。
彼女の今の活動は自称「あねご」として「自分が見込んだ優秀な研究者を徹底的にサポートすること」に尽くされている。研究者は研究がしたいから大学に残っている訳であり雑務をやるために残っている訳ではない。だからこそ、その人たちに「おまえら研究やれよ」と言えるだけの環境というものをどう作るか、それを仕事、研究対象としているのである。お固い表現をすれば「技術移転、産学連携、コミュニケーション系」活動である。しかも活躍の場は、アメリカから中国まで各国にわたり、1年間の3分の1を海外で過ごしている。
ぐいぐいと引っ張り込む語り口と存在感に聴講する一同圧倒されていた。また、自分が輝くのでなく、支援する研究者を徹底的に輝かせるために自分のすべてをつぎ込む、という姿勢と行動に「自分にはできるだろうか?」という懐疑の心とともにそのような存在がいればこそ、研究が進むのかもしれないという発見もあったようである。
なお聴講生に女性は少なかったが、その彼女からは一人のロールモデルをみた感がしたという感想がよせられた。
使用教材等 講師スライド(非公開)
教材・配布資料、その他 r0011418r0011420

第6回 プロフェッショナルへの期待

講義開催日 2011年2月15日
開催場所 鶴舞キャンパス修士講義室
担当教員 上田肇氏
講義の内容ならびに担当教員所感 上田氏は今までの講師とは異なり、数々の資格、Harvard MBA、在米10年以上の国際経験、現地法人社長などの輝かしい経歴を誇り40代ながら一部上場企業の役員まで上りつめた人物である。しかし、その一方で日本の大企業組織のまさに「日本らしき」舞台で、アメリカ的合理主義とアントレプレナーシップの御旗を下ろすことなく上手に泳いできた日本組織立ち回りの達人ともいえる。
同氏からは、日本的組織の中でも発揮できるアントレプレナー的活躍、そしてそのために同氏が身につけ、さらに編み出してきた上司操縦法、部門統率術などが語られた。
アントレプレナーというと、脱日本、日本の大組織と最も相容れぬものという思い込みもなくない。が、それを覆す興味深い講義であったと思う。
この回は、夜間開講し、社会人、他学の学生など一般に公開した。約20名の参加者であったが、多士済々、特に臨床系、基礎系の大学院博士課程の学生も少なからず参加していた。経営、経済的な話しの一部は理解難しかったものの、日米の組織比較や競争的優位の差、日本組織の中でどううまく立ち回るかという遊泳術のような話しは大変参考になったようだ。
使用教材等 プロフェッショナルへの期待(上田肇)
6回 上田氏講義資料(抜粋).pdf
教材・配布資料、その他 r0011454r0011455

今後の講座実施に向けた示唆

今年度の成果・反省点 10から25名までといった比較少数の聴講者数とはなったが、参加してくれたすべての人でbefore and afterに大きな「何かをやろう」という気持ちの変化をもたらした。(学生アンケート結果参照のこと)
また、毎回、講義のあとも参加者有志と研究室でさらに数時間の議論となり、twitterやblogを通じて講義終了後もコミュニケーションが続いている。
今回の企画講義シリーズは学部生だけでなくすでに社会に出て活躍している面々に対してもアントレプレナーシップの高揚に極めて有効であると改めて確認できた。最終回は医学研究科内で掲示を行い、告知したが、それを見て様々な講座博士課程学生が参加してきたのはうれしい誤算であった。
しかし、その一方で、上記状況はそもそも選択してきた学生であったからというバイアス効果を反映しただけというのも現実だろう。
実際、今年度前期に全学教育科目として「事業創造論事始め」と題し講義をし、その聴講学生から本講座の存在を知り参加した学生がいたが、それは「事業創造論」選択者100有余名のうち1名(その学生の紹介でさらに今回聴講した学生はいたが)である。歩留まりは1%ということになる。
アントレプレナーシップの高揚という裾野を広げるという目的からするとこの率はあまりに低い。この数字をいかにあげていけるかが今後の課題だと思う。
もうひとつの反省点は、企画していた講義コンテンツのマルチメディア化がかなわなかったことである。当初の予算配分では不足が予測され(結果的には全回は無理にしても一回分程度は可能だったかもしれない)収録専従人員が得られず固定焦点カメラ設置しかできなかったこと、それに加え、画像化を念頭においたシナリオ設定がないと視聴に堪える作品にはならないこと、この二点が失敗の二大原因であった。
後(あと)編集をいくら加えようとしても、元々の生画像がアドリブ主体では「見(魅)せる」絵にならない。ヤラセになってはいけないが、あらかじめ綿密なプロット、シナリオを各講師と詰め講義を実施しなければ時間繰りも含め、単なる画像の垂れ流しになってしまうことを痛感した。もっとも、今回は前記理由により、画像そのものが撮れていない部分すらリアルタイムにチェックすることができず終了後記録欠落が明らかになるなど、適切な撮影か否か以前の問題も少なからずあった。
来年度に向けての展望等 見せる画像記録とそのネット上シェアなど野心的試みは現実にかなわなかった。が、別途録音していた記録から講義録を起こすことができた。編集作業を加えねばそれも宝の持ち腐れになりかねない。現在、それをもとに講義をベースにしたメッセージ的書を編纂したいと考えている。
また、担当教員が離任することにより本学における本講義はなくなる。が、社会教育、職場教育の場を含め、同じ主旨の講義を今後も継続していく所存である。